歯髄温存治療
VPT
(Vital Pulp Therapy
歯髄温存療法、生活歯髄切断法)
神経を残す治療
痛みがなくても深い虫歯がある場合、歯髄(神経)まで感染が及んでいることがあります。
一般的には虫歯の治療時に露髄(神経が露わになる)した場合、神経の治療を行います。
では、神経を失うと歯にはどのような変化が起こるのでしょうか?
神経を失うことによるデメリット
- 神経、血管が通わなくなるため、感覚の低下が起こる
- 神経を取る時に内部の歯質を削り、汚れを取らざるを得ないため、歯の厚みが減り強度が下がり、ヒビや破折の原因になる
- 歯髄を失うことで、虫歯などによる痛みを感じにくくなるため、その後の虫歯に気づきにくくなる
- 歯に免疫機能がなくなるため、虫歯の菌に対して抵抗力が下がる
歯には2つの感覚があります。
1つは噛み合せた時に、硬いものなのか、柔らかいものなのかなどを感じる歯根膜由来の触覚です。
もう1つは熱いものか、冷たいものかなどを痛みによって感じる歯髄由来の痛覚です。
この2つによって咬合力などの力に対して歯を守る働きがあります。
つまり歯髄を失うと、力に対する感覚が弱くなり、歯髄のあった時に比べると、 2倍近くの力をかけて同じというに感じると言われています。
そのため、本来より強い力が歯にかかり、歯のヒビや破折(割れること)につながってしまうのです。
大きな虫歯がある時点で必ず歯髄(神経)が守れる訳ではありませんが、当院では上記の理由より可能な限り神経の温存を試みております。
VPTとは
日本語でバイタルパルプセラピーと呼ばれ、"歯髄温存療法"や"生活歯髄切断法"などと呼ばれている治療法です。
近年、バイオセラミックセメントと呼ばれるMTAセメントが普及したことにより、今まで神経を取らなくてはならないと言われるような深い虫歯でもVPTをすることで温存することが可能になりました。
※MTAセメントとは
[Mineral Trioxide Aggregate]の略で、歯科用コンクリートセメントのようなものになります。
強いアルカリ成分が殺菌効果に働き、治療時に粘性だったセメントが24時間経過するとコンクリートのように固まります。
強アルカリ(PH:12.5)の為、細菌に対しての殺菌効果も期待できます。
※乾燥すると中性となり為害作用がなく、生体親和性の高く身体に安心安全な材料です。
・神経の治療をした時の充填剤
・歯に穴が空いてしまった時のリペア剤
・神経を残すための保護剤
などとして他の治療でもよく扱われているセメントです。(VPTが適している方)
成功率は50~80%(Ranly DM,et al,J Dent.2000)で、適応症には以下の2つがあります。
- 外傷による破折で
歯髄にまで達する場合 - 冷水痛はあるが自発痛がない可逆性歯髄炎までの虫歯
当院におけるVPTの
トリートメントエッセンス
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精密な診査・診断
十分な痛みの問診を行い適応症かの判断をさせていただきます。
特に自発痛といい、何もしまくてもズキズキ痛んだり、夜の方が痛みが強かったりする場合は不可逆性歯髄炎の可能性があり、適応症でない場合があります。また、電気歯髄診(写真載せる)で生活歯髄反応があるかどうかやX線写真にてどこの部位が痛みの原因になっているか、根尖部まで炎症が及んでないかなどを診査させていただきます。
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ラバーダム防湿下での処置
虫歯治療中に神経が露出した場合、神経の処置を判断する理由の一つにラバーダム防湿下で行なっていないということが挙げられます。
唾液の中には多くの雑菌が含まれ、本来絶対に触れることのない神経に触れてしまった時点でこの処置の成功率は著しく下がってしまします。
また、ラバーダム防湿下でなくては止血・消毒に使う強い薬が使えず、歯肉からの滲出液も防げないのでVPT後の封鎖も不完全になってしまいます。歯を守るためには虫歯治療の段階でいかに精度の高い治療ができるかがポイントですし、そのためには少し染みるという理由ですぐ歯を削るのではなく十分な診査・診断を行いコンセンサスを得てラバーダムをかけることが大切です。
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マイクロスコープ下での
虫歯識別・歯髄鑑別虫歯の原因菌である「ミュータンス菌」は1μmで直径3~4μmの象牙細管内に入り込んでいき、歯に以下のような層を形成し進行ていきます。
では、どこまで虫歯を除去するればいいのかというと、現在は細菌感染があり再石灰化不可能で知覚がないう蝕象牙質外層(先駆菌層まで)と考えられています。
しかし、厳密に削っていい虫歯を見分けるのは難しく、総山孝雄ら(注1)によると経験年数15年の歯科医師でさえ、虫歯を13%取り残すというレポートがあります。
この13%を可能な限り0%に持っていくために、当院では削って良い虫歯を的確に識別できる精度の高い検知液(1%アシッドレッドのプロピレングリコール溶液)を用い、マイクロスコープによる拡大視野で正確に虫歯除去を行なっています。
またマイクロスコープ下であれば、肉眼では確認しずらい露髄の見落とし防ぐことができ、歯髄の状態も観察することができるため神経をどのレベルまで残すかの判断が可能です。
(注1:ウ蝕検知液の新組成について/総山孝雄/高津寿夫/伊藤和雄/山内淳一/柴谷亭一郎/日歯保存誌 22, 261-264, 1979)
(注2:「う蝕治療ガイドライン 2015」特定非営利活動法人日本歯科保存学会)